大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)4682号 判決 1988年11月30日
原告 丸山照登
右訴訟代理人弁護士 澤田恒
同 菊井豊
同 山﨑省吾
被告 株式会社ミルトン
右代表者代表取締役 田中均
主文
一 被告は、原告に対し、昭和六三年一月二一日原告が被告の取締役を辞任した旨の変更登記手続をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、光ファイバーによる通信、電飾看板、照明器具、装飾品及び屋内、屋外各種広告用看板の製作、販売及び輸出入業務等を目的とする株式会社である。
2 原告は、昭和六二年一〇月八日、被告の株主総会において取締役に選任され、その旨同月二〇日被告の商業登記簿に登記された。
3 原告は、被告に対し、昭和六三年一月二一日ころ、被告の取締役を辞任する旨の意思表示をして取締役を辞任した。
仮に右事実が認められないとしても、原告は、被告に対し、同年三月三日、被告の取締役を辞任する旨の意思表示をして取締役を辞任した。
4 よって、原告は、被告に対し、原告が被告の取締役を辞任した旨の変更登記手続を求める。
二 請求原因に対する認否及び抗弁
1 請求原因1及び2の事実を認める。
2 同3の事実を否認する。原告を含む被告の取締役五名全員は、取締役就任の際、右五名の取締役全員によって構成される五心会の承認がなければ取締役を辞任できない旨の合意をしているところ、原告の取締役辞任請求は右五心会において否決されたから、原告は取締役を辞任することができない。
三 抗弁に対する認否
抗弁事実を認否する。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。
二 そして、《証拠省略》を総合すれば、原告は、昭和六三年一月二一日ころ被告に送達された被告宛内容証明郵便をもって、被告代表者に対し、被告の取締役を辞任する旨の意思表示をしたことを認めることができる。
被告は、原告を含む被告の取締役五名全員で構成される五心会の承認がなければ取締役を辞任できない旨の特約がある旨主張するが、株式会社における会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従い(商法二五四条三項)、委任は各当事者において何時でもこれを解除することができる(民法六五一条一項)関係にあるから、取締役は何時でも自由に辞任することができると解すべきであり、会社側は何時でも株主総会の決議をもって取締役を解任することができること(商法二五七条一項本文)、取締役が会社に対して重い責任を負わされ(同法二六六条一項)、一定の行為をなすことを制約されていること(同法二六四条、二六五条一項)等に照らし何時でも取締役を辞任することができる自由に反する特約は効力を有しないと解するのが相当であるから、仮に右被告主張の合意があったとしても、原告は右辞任の意思表示により被告の取締役を辞任したものといわざるを得ない。
三 よって、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 佐野正幸 藤田敏)